機動警察パトレイバー 2 the Movie(1993)

監督:押井守

 

冬になると観たくなる作品の一つ。

個人的にアニメ作品の最高峰と思う。

 

 攻殻機動隊スカイ・クロラと比較すると起承転結のわかりやすい物語となっているし、TVシリーズと劇場版1作目の続編にあたるので人物の説明に余計な描写を割く必要が無くなっているためかと思うが、登場人物も魅力的に見える。しかしこの映画が傑作であるのは、内容の面白さと技術の水準の高さが並立しているからだろう。素人目で見ても明らかに絵が上手い。演出や構図も印象に残る。音楽も良い。オープニングもエンドクレジットも劇中の曲も印象的で、全体的に今聴いても古びていない。この時代の映画は、今観ると劇伴が作品の足を引っ張っているものがある。例えば、ガンダムWのEndlessWaltzは好きな映画なんだけど、古臭いBGMが流れる場面があって、その場面に限ってはどうしても興が削がれる。だが、本作はそんなことはない。2000年以降にサントラがリマスターされて、いまだにAmazonに在庫があるのもそのことを裏付けていると思う。

 

 本作では後藤さんと南雲さんが主役を張る。後藤さんの有能ぶりと南雲さんの美しさがきわ立っている。南雲さんは綺麗だ。昔の男への私的な未練と職務上の義務とのあいだで板挟みになっていて、憂いを帯びた表情をすることが多い。後藤さんもカミソリ後藤の名のとおり、荒川という怪しさ満点の男と折衝を重ね、組織の命令に従っている体裁を取りつつ華麗にサボタージュし、命令や強要をすることなく松井刑事を足で使い、南雲さんに叱られながらも(むしろ叱られて嬉しい)、各方面への根回しを絶やさず、部下からは慕われている。だが結局、作中でトップクラスに有能なこの男が女性に振られてしまうという…。

 

 閑話休題。この作品は絵的にサマになる場面設定が多い。何も考えず映像を眺めているだけでも楽しめる。

・深夜、湾岸沿いの高速道路を車で走る。光は車外から射す道路照明(射し込む/途切れるを繰り返すことの効果!)と車内の小さいモニターぐらいのもの。窓外には高層ビルや巨大なクレーンなどが見える。

・東京の廃墟。水路沿いの家屋、湾岸沿いの工場、廃止された地下鉄の駅。

・雪。といっても吹雪のように強烈に吹きつけるようなものではなく、「しんしんと」という語すら当たらない。無風の大気を重力の作用のみによって空から降りてくる感じ。それがこの映画にある種の静けさを与えている。

・首都のビル街を進む戦車、雪の降る広場にぽつんと鎮座する戦車、市民の日常生活に突如混入する軍隊。思いのほか兵隊と戦車には夜と雪が似合う。2.26事件のイメージ。

・和風の民家、街角のたばこ屋。着物やたんす、障子など今は亡き調度類のノスタルジ―。ノスタルジーは、場合によっては小洒落た記号と化し、趣味が悪く見えてしまう事があるが、本作はそうではない。榊(おやっさん)のキャラにしっくり来るからだろうか、調度とそれを使う人物が調和している感じがあるわけだ。室内が基本ローアングルなのもいい。榊の家で正座している南雲さんが美しい。

 

 ここまで触れてないが、言及しないのも不自然になるだろうから書くか。物語の本筋は政治的な話。戦争という問題に対峙することを避けて幻想に過ぎない平和を謳歌している日本…などという話。しかし、個人的にはどうでもいい。ピンとこないのだ。政治は、そのキナ臭さ故に作品の色調に豊かな淀みを添える効果がある…その程度の認識しかない。つまり、語られていることそれ自体に対して、リアルな問題意識を持って接するというより、美的な鑑賞しか行っていない。なぜそうなのか、なぜ政治的なものに無関心でいられるのか。政治を理解する気のない俺に問題があるのか、たまたまこの作品の描写が不足しているだけのか。いや、俺も平和ボケした日本人の一人だからなのか。わからない。

 

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